宮沢 賢治

秋田街道

どれもみんな肥料や薪炭をやりとりするさびしい家だ。街道のところどころにちらばって黒い小さいさびしい家だ。それももうみな戸を閉めた。

おれはかなしく来た方をふりかへる。盛岡の電燈は微かにゆらいでねむさうにならび只公園のアーク燈だけ高い処でそらぞらしい気焔の波を上げてゐる。どうせ今頃は無鉄砲な羽虫が沢山集ってぶっつかったりよろけたりしてゐるのだ。

私はふと空いっぱいの灰色はがねに大きな床屋のだんだら棒、あのオランダ伝来の葱の蕾の形をした店飾りを見る。これも随分たよりないことだ。

道が小さな橋にかゝる。螢がプイと飛んで行く。誰かがうしろで手をあげて大きくためいきをついた。それも間違ひかわからない。とにかくそらが少し明るくなった。夜明けにはまだ途方もないしきっと雲が薄くなって月の光が透って来るのだ。

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