岸田 国士

其日、其日の気持

最近二ヶ月ぶりで東京へ出た。用事もあるにはあつたが、その傍ら噂に聞くのみであつた数度に亘る空襲の被害をこの眼でちやんと看ておきたかつたのである。

一方から云ふと聞きしにまさる惨状であるが、また一方から考へると、これが当り前といふ気もする。もちろん到るところ完全な焼け跡が目につくばかりで、空襲当時の不安と混乱と市民の敢闘ぶりは想像の及ばぬものであつたらう。

焼野ヶ原の、その生々しい焼け跡のそここゝに、寄せ集めの材料でバラツクが建てられ、もう着のみ着のまゝの生活が始められてゐるのをみると、私の胸はひとりでに熱くなつた。

それにしても、東京は、まことに、空爆に対しては脆い街であつた。東京市民がさうだといふのではない。東京の都市計画と建築がさうなのである。それを今更気がついたとて何にもならぬが、この経験が教へるものは、単に「防空」といふ一点だけではない。わが国民の戦力のなかに、東京を始め、戦禍の予想外に大きかつた大都市の面影がありはせぬかといふこと、若し、それが無いとはいへぬとすれば、これはそのまゝほうつてはおけぬわけである。

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