牧 逸馬

助五郎余罪

一

慶応生れの江戸っ児天下の助五郎は寄席の下足番だが、頼まれれば何でもする。一番好きなのは選挙と侠客だ。だからちょぼ一仲間では相当な顔役にもなっているし、怖い団体にも二つ三つ属している。

「一つ心配しやしょう」

天下の助五郎がこう言ったが最後、大概の掛合いは勝ちになる。始めから棄身なんだから暴力団取締の法律なんか助五郎老の金儲けにはすこしも影響しない。その助五郎が明治湯の流し場に大胡座をかいて、二の腕へ刺った自慢の天狗の面を豆絞りで擦りながら、さっきから兎のように聞き耳を立てているんだから事は穏かでない。正午近い銭湯はすいていた。ただ濛々と湯気の罩めた湯槽に腰かけて坊主頭の若造と白髪の老人とが、何かしきりに饒舌りあっている。

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