岸田 国士
『日本人とはなにか』まへがき
雑誌「玄想」の創刊号から十回に亙つて毎号「宛名のない手紙」といふ題で発表した文章をこゝに一冊の本として出すことにした。
書物の題としては「宛名のない手紙」ではちよつと内容が想像しにくくはないかといふ出版者の意見に従ひ、思ひきつて、「日本人とはなにか?」と露骨な標題をつけてみた。
しかし、これで内容とぴつたり合ふかと云へば必ずしもさうでないのが厄介である。もし仮に標題が内容を正確に示さなければならぬとすれば、こんな風にでもいふよりしかたがない――「日本人にはかういふところがある」と。
さて、私のこれらの文章が雑誌に発表された当時、いはゆる反響といふべきものが相当にあり、私自身も直接間接、いろいろな読者の声を聞くことができた。それは、私にとつて、誡めともなり、励ましともなり、要するに、まつたく無駄なことをしたのではなかつたといふことをはつきり教へられた。