岸田 国士
人間カザノヴァの輪郭
一
カザノヴァの回想録を訳しはじめてみると、いろいろな問題が自分にも起こつて来るし、この書物の解説といふやうなものが同時になくてはならぬといふ気がするので、既に世にあらはれている文献をできるだけ探す一方、自分自身のメモもひと通り作つておきたいと思つてゐる。これから二十巻ぐらゐに分けてつぎつぎに刊行する予定の訳本に、いくらかづゝでもそのノートをのせるやうにしたい。
「人間カザノヴァ」は、私が今、一番興味を惹かれてゐる「人間の典型」の一つである。
十二三年前のこと、私はふとカザノヴァを読んでみる気になつた。フラマリオン版の古典叢書で全八巻といふ大部なものだが、私は一と夏かゝつてぼつぼつ読んだ。時には読み耽るといふ状態に自分で気がついて、やゝそらおそろしくなることもあつた。