田中 貢太郎
立山の亡者宿
一
小八はやっと目ざした宿屋へ着いた。主翁と婢が出て来てこの壮い旅人を愛想よく迎えた。婢は裏山から引いた筧の水を汲んで来てそれを足盥に入れ、旅人の草鞋擦のした蒼白い足を洗ってやった。
青葉に黒味の強くなる比のことで日中は暑かったが、立山の麓になったこの宿屋では陽が入ると涼しすぎる程の陽気であった。小八は座敷へあがるなり婢が来て湯に入れと云うので、云うなりに湯殿へ往って湯に入り、濡れた手拭で顔を拭き拭き己の室へ帰るとすぐ主翁が来た。
「お客さんは何方からお出でになりました」