岸田 国士

俳優と現代人の生活(対話Ⅴ)

A(編集者) 先月、日本の俳優は、芝居するという目先のことにとらわれすぎて、演技にフクラミがない、というようなお話がありましたが、これはやはり歌舞伎なんかのやり方と関係があるでしようか……。

岸田 それはなくはないと思いますがね、でもあんまりないと思う。

A 歌舞伎の演技には、特殊の造型法みたいなものがあつて、演技者は中心点だけを非常にはつきりと押し出して来ますね。

岸田 そりや歌舞伎の役者が新劇をやるとそういう事になるかも知れないが……、西洋の芝居を勉強して来た演出家が演出した芝居が大体そうなつてきているね。これはやつぱり現代人の生活というものの観察のしかたが足りない所の方が大きくはないかと思う。そうして近代リアリズムというものの、日常性に結びついた魅力を深く掴んでいない結果だと思う。だから、些末主義に陥るとはいうけれど、実際は、リアリズムから、だんだんトリビアリズムに落ちこんで行つたという歴史が日本にはない。それはリアリズムというものの底をついて、デカダンスとしての些末主義じやなくて、リアリズムの上すべりをして安易にそこへ走つてしまつた些末主義だと思います。

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