岸田 国士

述懐

真夜なかにふと眼が覚めた。パリの下宿の一室である。どうして眼が覚めたのか、と、その瞬間、自分にもわからなかつた。夢を見てゐたやうな気もするが、どんな夢か覚えてゐない。たゞ妙に口の中がなまぐさく、さう気がつくと、顔に冷たいものが触れ、夜具の襟をそつと撫でてみる。べつとり濡れてゐる。傍らの台ランプに火を点ける。すると、私の上半身が、正面の戸棚の鏡に映つてゐる。私は愕然とした。

なんの予告もなく、前日まではぴんぴん飛びまはつてゐた私に、喀血、しかも、眼をおほひたくなるやうな大喀血が見舞つたのである。

私は着物を着かへ、寝床の始末をし、静かに、再び横になつた。

「やつぱり直つてゐなかつたのか」と、その時、私は、自分の病歴を想ひ出した。

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