岸田 国士
外遊熱
外国へ行つて勉強したいといふ青年が、近頃非常に多い。ちよつと流行心理のやうな一面もなくはないが、しかし、それ以上に、なにか止み難い要求が必然的に湧きあがつてゐるやうにみえる。
曾つての時代にも、いはゆる洋行熱と称せられたもの、猫も杓子も西洋を廻つて来さへすれば、いつぱし大きな顔ができさうに思はれた風潮があつた。それと比べて、今日の外遊熱は、いくぶん、性質のちがつたもので、ことに私の周囲にみられる熱烈な外国行きの願望は、たしかに、それによつて、若い人たちが真に生きる道を見出さうとする唯一無二の手段とさへ思はれるものが多い。
ところが、現在は、いろいろな事情で、その希望を実現させることが最も困難な時代である。出国手続の問題がその一つ、経済的な問題がその一つである。
しかし、手続の問題は、講和条約が締結され、国際関係が正常な形に復せば、これはさう面倒なことはないと思ふし、経済的な問題は、これこそ程度によりけりで、いつの時代でも、普通の外国旅行はなかなか金のかゝるものである。従来でも、金の心配をせずに海を渡るなどといふことは、官公費留学か、家に財産があるか、特志家のパトロンでもついてゐなければ、容易にできるわけのものでなかつたのである。が、それにも拘はらず、その何れにも該当しない境遇で、ともかくも、日本を離れ、幸運にも目的の土地を踏んだ若干の例外はある。