岸田 国士
あるニュウ・フェイスへの手紙
昭和二十五年秋、いわゆる「演劇の立体化運動」のために文壇、劇壇の有志数十名により「雲の会」が作られ、その活動の一つとして翌年五月、月刊雑誌「演劇」が創刊された。本稿は、その創刊号から九カ月に亘って連載され、俳優ならびにそれを志す人々のために、個々の具体的な問題について、著者の思いつくままに筆を進めたもので、問題はこれで尽きたわけではないが、二十七年一月同誌の廃刊により、ひとまずこれだけにとどめて発表することとした。
1 舞台俳優と映画俳優
F・T嬢へ
今度M撮影所へおはいりになったそうで、まずまずおめでとう。千人からの受験者のうち、五人だけ採用されたというのだから、まことに幸運と申さなければなりますまい。それにしても、あなたが審査員たちの眼にそんなに光った存在として映ったということは、たぶんあなたが俳優として恵まれた素質をもっていられるためと思いますが、しかし、それだけではまだ将来が決定されたとは言えない。これからがたいへんです。そして、そのことを誰よりも強く感じておられればこそ、あなたは、この僕に、さしあたって助言を求められたのだと思います。