岸田 国士
十五年
私たちが文学座をはじめてから、なるほどもう十五年たつわけであるが、それだけの成長をしたかどうか、このへんで厳しい自己批判を加えてもよさそうである。
なるほど、個人的には、いくたりか、俳優らしい俳優もできてきた。産婆役の私がろくろく年をとつたことからみれば、劇団としての幅も重みもついたように思われる。しかし、仕事の量に比して、質の方は、全体にさほど高まつたとは言えないように思う。原因はいろいろある。一番大きな原因は、やはり戦争であろう。少くとも、芸術活動にとつて、武力が物を言う時代ほど不幸なものはない。
その代り、敗戦という経験は、後に来るものゝ如何に拘わらず、精神的には、必ずわれわれに貴重なものとして残ることを信じる。
文学座は、現在はなお、ジクザクの道を辿りつゝあるようにみえるかも知れないが、新鮮な芽はまさに伸びようとしている。