岸田 国士
加藤道夫の死
またひとり、作家が自殺した、といふ感じ方でこのニュウスを受けとつた人々がずいぶんたくさんあつたと思ふ。
私は、とくに身近な友人の一人として、彼が死を撰んだ理由を正確につかみたいのだがいろいろの事情を綜合して考へても、最も重要なたゞ一つの理由を挙げることは不可能だといふ結論に達した。
彼の所属していた文学座に宛てた遺書に、「芸術上の行き詰り」といふ理由をはつきり告白してゐるけれども、彼が主観的にさう考へることそのことが、われわれには納得しかねるほど、客観的には、多くの支持者に取り巻かれ、多彩な仕事のプランと取り組み、着々それを実行に移してゐたのである。
彼は、時に、甚だ遅筆らしく見えた。しかし、それは、彼の野心が、彼の想像力を圧倒した時であるやうに思はれる。