渡辺 温
浪漫趣味者として
H――氏と云って、青年の間に評判の高いロマンティストと懇意を得たことがあった。
H――氏は、散歩に出る時の外は、何もしないで、下宿の好ましい調度で品よく飾った部屋に寝ころんでいることが多かった。少からぬ親の遺産が預金してあるという噂であった。
初対面の時、私は自分も予々優美なロマンティストの生活を望んでいた旨を告げた。
『これは生え抜きのものです――』とH――氏は、私のギャラントリイを咎めるように云った。『ダーインにしても、マルクスにしても、アインシュタインにしても、偉いロマンティスト程、択ばれた素質を具えていました。あなたの身体組織の中にロマンティストとしての生まれ付きが含まれていると思いますか?』