岸田 国士
「現代風俗」はしがき
風俗といふ言葉をごく広い意味にとつて、私はこの書物に「現代風俗」といふ題をつけた。
世の中の現象をすべて「風俗」としてみる興味が私には一番強く、また、さういふ見方をしなければものが云へないといふ理由も私の場合には成り立つのである。
一国一時代の風俗は、個人の生活のうちに、社会万般の様相のなかに、共通の現象としてあらはれるものである。政治と云はず、教育と云はず、家庭にも街頭にも、ジャアナリズムの紙面にも、国家の議場にも、均しく現代日本の奇怪な風俗が横行してゐることを誰もなんとも思はないであらうか?
眼に角たてて云ふほどのことではないかも知れぬ。誰にでもわかつてゐることだとみんなが云ひさうでもある。或は私の神経過敏がさせる業だとすれば、これは即ち、悲憤の書でも反省の書でもなく、単なる自称病人の容態書きにすぎぬ。せめて、歴史的な意味だけをもつ埋れた記録となれば、それはそれでもよろしい。