岸田 国士
「演劇美の本質」はしがき
演劇に関する評論、感想の類をあつめて書物にするのはこれで三度目である。最初は、「我等の劇場」といふ題で、次ぎは、「現代演劇論」といふ題で出した。今度は、「演劇美の本質」とすることにした。
「我等の劇場」に含まれる文章は大部分「現代演劇論」の中へも入れたが、そのなかから、さらに今日でもなほ、若い演劇研究者、演劇愛好者に是非読んでもらいたいと思ふ文章をあらかた撰び、そのほか、直接演劇を論じたものではないが、私の演劇論の支えとなる一、二の「言葉」に関するノートを加へて、この一巻を編んでみた。
「私の演劇論」などといふとなにか系統だつた、特色のある理論のやうに聞えるけれども、私自身のつもりでは、日本の新しい演劇の樹立の為に当時もつとも必要と感じられた提言が、そこには力を籠めて述べられてあるといふだけで、みづから、ひとかどの演劇学者をもつて任ずるつもりはさらさらないのである。
演劇革新の目標と手段とは、決して一様ではない筈である。しかし、いかなる演劇の新しい精神と形式とが創り出されるとしても、演劇が演劇でなくなることほど演劇にとつて危いことはない。