岸田 国士

岡田君のこと

巴里で岡田君と別れてから、もう十二三年になる。彼はその後、南フランスのゴオドといふ海岸へ移り住み、まつたく土地の人になつてしまつてゐるらしい。

巴里時代には、お互に貧乏であつたが、時とすると彼はその貧乏振りで流石の僕を感嘆させたものである。青山熊治君にも、やつぱりさういふところがあつた。しかし、岡田君は何時でも紳士然としてゐて、放浪者の惨めさを何処にもみせない一種の意地をもつてゐた。

彼は、素朴で剛毅な魂をもつてゐる、国際的な生活に慣れ親しむ一方、日本人としての矜りを失つてゐない。彼くらゐ西洋人の前で堂々と振舞ふ人間は、日本人の中には少いと思ふ。それが無愛想でも傲慢でもなく、彼と話をして、ジヤンチイだと感じない西洋人はゐないくらゐだから、これこそ真に国粋的な人物としてわれわれは意を強うするに足るのである。

かういふ彼が、画家としてどんな仕事をしてゐるか、一度、故国の人々は是非観ておかなければならぬ。

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