押川 春浪

本州横断 癇癪徒歩旅行

不思議の血=懦弱と欲張=髯将軍の一喝=技手の惨死=狡猾船頭=盆踊り見物=弱い剛力=登山競走=天狗の面=天幕の火事=廃殿の一夜=山頂の地震=剛力の逃亡=焼酎の祟=一里の徒競走=とんだ宿屋

(一)昼寝罵倒

この奮励努力すべき世の中で、ゴロゴロ昼寝などする馬鹿があるかッ! 暑い暑いと凹垂れるごときは意気地無しの骨頂じゃ。夏が暑くなければそれこそ大変! 米も出来ず、果実も実らず、万事尽く生色を失う事となる。夏の暑いのがそれほど嫌な奴は、勝手に海中へでも飛込んで死ぬがよい。今や狭い地球上――ことにこの狭い日本では、碌でもない人間が殖え過ぎて甚だ困っている。怠惰者や意気地無しがドシドシ死んでしまえば、穀潰しの減るだけでも国家の為に幸福かも知れぬ。

吾党は大いに夏を愛する。暑ければ暑い程鋭気に満ちて来る。やれやれ、何か面白い事をやってくれようと、そこで企てたのが本州横断徒歩旅行! もちろん亜弗利加内地旅行だの、両極探検だのに比すれば、まるで猫の額を蚤がマゴついているようなものであるが、それでも、口をアングリ開けて昼寝をしているよりは、千倍も万倍も愉快に相違ない。

青空文庫の作品カード