水野 葉舟
北国の人
一
九月の中ごろ、ひどく雨が降った或る晩のこと。――学校を出た間もなくこれから新聞社にでも入る運動をしようと思ってる時に少し思うことがあって、私は親の家から出て、佐内坂上[#ルビの「さないざかうへ」はママ]の下宿屋に下宿して間もなくであったが、――ちょうど九時打った頃、その某館に、どしゃ降りの最中によそから帰って来た。
自分の室にはいって、散滴でじめじめしている衣服を脱いでいると、そこへここの娘のお八重が湯を持って入って来た。茶を入れてくれたり、濡れた衣服を衣紋架に通して、壁のところにかけたりして、室を片付けていたが、急に思いついたように、
「ああ、そうそう、下の荻原さんが貴方にお目にかかりたいって。」と言う。