夢野 久作

女坑主

「ホホホ。つまりエチオピアへお出でになりたいからダイナマイトをくれって仰言るんですね。お易い御用ですわ。ホホホ」

新張炭坑の女坑主、新張眉香子は、軽く朗らかに笑った。

初期の銀幕スターから一躍、筑豊の炭坑王と呼ばれた新張琢磨の第二号に出世し、間もなく一号を見倒して本妻に直ると、今度は主人琢磨の急死に遭い、そのまま前科者二千余人の元締ともいうべき炭坑王の荒稼ぎを引き継いで、ガッタリとも言わせずにいるというしたたか者の新張眉香子は、さすがに顔色一つかえないまま、こうした無鉄砲な要求を即座に引き受けたのであった。

四十とはトテモ見えない襟化粧、引眉、口紅、パッチリと女だてらのお召の丹前に櫛巻頭。白い素足と真紅のスリッパにゴチック式の豪華を極めた応接間をモノともせぬ勝気さを見せて、これも炭坑王の奢りを見せた真綿入緞子の肘掛椅子に、白い豊満な肉体を深々と埋めている。その睫の長い二重瞼の蔭から、黒い大きな瞳をジイッと据えて微笑された相手の青年は、その素晴らしい度胸と妖気に呑まれて恍惚となってしまったらしい。

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