豊島 与志雄

シャボン玉

一

 むかし、トルコに、ハボンスといふ手品師がゐました。三角の帽子をかぶり、赤や青の着物を着、一人の子供をつれて、田舎の町々を廻り歩きました。そして町の広場にむしろをひろげて、いろんな手品をして見せました。しやちほこ立や、棒上りや、金輪の使ひ分けや、をかしな踊りなどを、太鼓をたゝきながらやるのです。

けれども、さういふ広場の手品師の生活は楽ではありませんでした。見物人がはふつてくれる金はごくわづかなものでしたし、その上、天気のよい日にしか出来ないのです。雨が降つたり雪が降つたりする時には、宿屋の中にぼんやりしてゐなければなりません。

或る年の冬、毎日毎日冷い雨が降りつゞきました。ハボンスと子供とは、山奥の小さな町に行つてゐましたが、広場に出て手品を使ふことも出来ず、きたない宿屋の室にとぢこもつてゐました。そして、早く天気になつて、美しい金輪を使ひ分けたり、思ふさま踊り狂つたりして、広場にあつまつてる人たちを喜ばしてやりたいものだと、そればかりを待つてゐました。けれども、なか/\天気になる模様がないばかりでなく、ちよつとした風邪の心地でゐた子供が、だん/\苦しみだしてきました。

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