豊島 与志雄

太一の靴は世界一

一

 大きな工場のかたすみに、倉庫があります。倉庫の裏口には、鉄の戸がしまつてをり、その上に長いひさしが出てゐます。

そのひさしの下に、十六七さいの少年が、靴直しの店を出しました。店といつても、名ばかりです。靴直しのだうぐと、革のきれはしと、こしかけになる木の箱だけです。

そのへんには、工場や、会社が並んでゐて、靴をはいた人たちがたくさんゐます。でも、この少年に靴直しをたのむ者は、一人もありませんでした。夕方になると、少年はだうぐをしまつて、すご/\とかへつて行きました。

青空文庫の作品カード