豊島 与志雄
椎の木
がけの上のひろい庭に、大きな椎の木がありました。何百年たったかわからない、古い大きな木でした。根かぶが張りひろがり、幹がまっすぐにつき立ち、頂の方は、古枝が枯れ落ちて、新たな小枝がこんもりと茂っていました。朝日がさすと、若葉がさわさわと波だち、椋鳥や雀がなきたてました。
春さきのこと、あたたかいそよ風が吹いて、この椎の木も笑ってるようでした。
その根もとに、二匹の鼠がかけまわっていました。小さいのが、根のはりだしたかげにかくれていますと、大きいのが、とびついてきます。とたんに、小さいのは逃げだして、根かぶの向うがわにまわります。大きいのは追っかけてゆきます。小さいのはまた逃げだします。そして、根のまわりをぐるぐるまわったり、立ちどまって相手のようすをうかがったり、逆にまわったりします。
そのうちに、こんどは大きいのが逃げ、小さいのが追っかけます。