中里 介山
大菩薩峠
一
宇治山田の米友は、山形雄偉なる胆吹山を後ろにして、しきりに木の株根を掘っています。
その地点を見れば、まさしく胆吹山の南麓であって、その周囲を見れば荒野原、その一部分の雑木が斫り倒され、榛莽荊棘が刈り去られてある。そのうちのある一部分に向って鍬を打卸しつつ、米友がひとり空々漠々として木の根を掘りつつあるのです。
打込む鍬の音が、こだまを返すほど森閑たるところで、ひとり精根を株根に打込んで、側目もふらず稼いでいるのは、この木の株根に執着があるわけではなく、こうして幾つもの株根を掘り起すことの目的は、この土地を開墾する、つまりあらくを切るための労力でなくてほかに理由のあるはずはありません。