島崎 藤村

力餅

はしがき

わたしが皆さんのようなかたとおなじみになったのは、以前に三冊の少年の読本を書いた時からでした。わたしも皆さんにお話しするのを楽しみに思うものですから、こんど新規に一冊の読本を用意しました。

もともとわたしの童話は遠い国の旅から生まれてきたのです。わたしはそんな旅にいて、外国の少年や少女を見るにつけても、日本のほうにるすいする自分の子供らのことをよく思い出しました。長いおるすいもさみしかろうと思いまして、何か外国のほうで見たり聞いたりしたお話を書いて、それを子供らに送りたいと思っていました。遠い旅の空ではそれも思うように果たせませんでしたが、ぶじに日本へ帰ってきまして、自分の子供らに話しかける父のものがたりとして、遠い国のみやげばなしを書きました。それがわたしの『幼きものに』です。

早いものですね。それから、あの『ふるさと』を書いたのはもはや二十二年前、『おさなものがたり』を出したのは十八年前にもなりますよ。皆さんの中には、わたしの『ふるさと』や、『おさなものがたり』を読んでみてくだすったかたもありましょうか。そしてわたしの子供らを覚えていてくださるかたもありましょうか。その子供らがもうみんなおとうさんになったり、おかあさんになったりしています。

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