土田 耕平
八の字山
私が幼いころ、一ばんさきにおぼえた字は、八といふ字でありました。これは、先生から習つたのではない、山が教へてくれた字であります。
村のうしろに、雑木山が二つ向きあつてゐる間から、擂鉢をふせたやうな形の山が、のぞいてゐて、そのまん中どころに、大きな八の字が書いてあるのです。それは、岩のかたまりが、裾ひろがりに二すぢ長くつづいてゐるのでしたが、とほくから見ると、りつぱな八の字になつてゐます。わたしどもは、その山を八の字山と呼び、その岩を八の字ゴウロと呼びました。
前の雑木山へは、近所の子供といつしよにつれだつて、木苺つみや、栗拾に、よくあそびに行きましたが、八の字山は、高い山なので、まだ登つたことがありませんでした。
たしか小学校へあがつた春の、日曜日だつたとおぼえてゐます。朝の御飯をいただいてゐると、お父さんが、「けふはいゝところへ連れて行つてやる。」といひますので、