宮原 晃一郎
怪艦ウルフ号
一
時は欧洲大戦の半ば頃、処は浪も煮え立つやうな暑い印度洋。地中海に出動中の日本艦隊へ食糧や弾薬を運ぶ豊国丸は、独逸商業破壊艦「ウルフ号」が、印度洋に向つたといふ警報を受けたので、帝国軍艦「伊吹」の保護を求めて、しきりに無電をかけながら、西へ西へと進んでゐた。
前部甲板の日覆の下には、とぐろを巻いたロープを椅子代りに腰掛けた二人の少年が話してゐる。水夫の服装をした少年は下村といつて当年十八歳、もう一人は中原といつて一つ下の十七歳、中原は麻の白服にカラーをつけたボーイ姿だつた。二人はこの船に一緒に乗組んでから、まだ一航海をしたつきりなのに、非常に仲好になつて、互に仕事を助け合つたり、相談したり、将来の希望を語り合つたりするのだつた。
「ウルフの畜生奴、やつぱり出て来ないな。」と、下村は幾分か失望したやうな口振で言つた。「やつぱり帝国軍艦『伊吹』が恐いのだらう。」