鈴木 三重吉
ダマスカスの賢者
一
むかし、ダマスカスといふ町に、イドリスといふなまけものがゐました。貧乏なくせに、はたらくことがきらひなのですからたまりません。或とき、もういよ/\食べるものもなくなり、売りはらふものと言つたつて、ぼろッきれ一つさへないはめになりました。おかみさんは、
「これではもう二人でかつゑて死ぬばかりです。後生だから、どうぞ今日からお金をもうけに出て下さい。」と、泣いてたのみました。
「お金をもうけるつて、一たい、どうすればいゝんだい。わしは、これまで商ばいをしたこともないし、てんであてがつかないよ。」と、イドリスは、生あくびをしながらかう言つて、長いあごひげをしごいてゐました。