チェーホフ アントン
てがみ
ユウコフは年はまだやつと九つです。せんには、お母さんと一しよに、ゐなかの村のマカリッチさまといふ、だんなのうちにおいてもらつてゐました。お母さんはそのうちの女中になつて、はたらいてゐたのです。そのお母さんが死んでしまつたので、ユウコフもそのお家にゐられなくなり、人の世話で、三月まへから、この靴屋の店へ、奉公にはいつたのでした。
こよひはクリスマスの晩です。ユウコフは親方や兄弟子たちが、教会からかへつてくるまでは、どんなにおそくまでも、ねむらないで、まつてゐなければならないのです。ユウコフは一人ぼつちで、さびしくてたまらないので、戸だなから、そつと親方のインキつぼをもちだして、さきのさゝくれたペンで、しわくちやの紙へてがみをかきだしました。だれよりも大すきな、あのマカリッチのだんなへ出さうとおもひついたのです。
「コンスタンチン、マカリッチのだんなさま。」とユウコフは、くびをひねり/\かき出しました。
「だんなさまのところは、クリスマスでにぎやかでせう。神さまが、だんなさまに、どつさりいゝことを下さるやうにいのつてます。だつて、わたしには、お父つあんもお母さんもゐなくなつたから、あとは、たゞだんなさまだけです。」