牧野 信一
サンニー・サイド・ハウス
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火をいれた誘蛾灯が机の上に置いてあります。その光りで見ると、捕虫綱もあります。毒壺も、採集箱もそろつてゐます。
どうもこれは見覚えのある道具だと思つて、とりあげてみると捕虫網の柄にも、採集箱の隅にも、ちやんと、S・Mと、僕の名前が記してあります。何年か前に博物学者にならうといふ理想をもつてゐた頃僕が使つたまゝ、一切の昆虫採集用具が部屋中に散乱してゐます。壁には採集物の額が並べかゝげてあり、棚にはアルコールづけの標本が、どれも僕の明瞭な採集記憶を呼び起させて、一杯ならんでゐます。
毒壺の中では一つの玉虫と甲虫が苦悶してゐます。