牧野 信一
繰舟で往く家
春来頻リニ到ル宋家の東
袖ヲ垂レ懐ヲ開キテ好風ヲ待ツ
艪を漕ぐのには川底が浅すぎる、棹をさすのには流れが速すぎる――そのやうな川を渡るために、岸から岸へ綱を引き、乗手は綱を手繰つて舟をすすめる、これを繰舟の渡しと称ふ。
その娘の家の裏門は川ふちに開いて、繰舟で向ふ岸の街道に渡つた。橋は見霞む川下の村境ひのはてであつたから、その繰舟はあたりの人々にとつてもこのうへもない近みちであつた。
牧野 信一
春来頻リニ到ル宋家の東
袖ヲ垂レ懐ヲ開キテ好風ヲ待ツ
艪を漕ぐのには川底が浅すぎる、棹をさすのには流れが速すぎる――そのやうな川を渡るために、岸から岸へ綱を引き、乗手は綱を手繰つて舟をすすめる、これを繰舟の渡しと称ふ。
その娘の家の裏門は川ふちに開いて、繰舟で向ふ岸の街道に渡つた。橋は見霞む川下の村境ひのはてであつたから、その繰舟はあたりの人々にとつてもこのうへもない近みちであつた。