牧野 信一
山峡の村にて
一
その村は、東京から三時間もかゝらぬ遠さであり、私が長い間住なれたところであつたが私は最早まる一年も帰らなかつた。恰度、一年前の今ごろ私はカバンを一つぶらさげて芝居見物に上京したまゝ――。
それ故、またカバンを一つぶらさげて戻つて来た私達の姿を見出したロータスといふ村の酒場の娘は、
「まあ、随分永い芝居見物でしたわね。」
牧野 信一
一
その村は、東京から三時間もかゝらぬ遠さであり、私が長い間住なれたところであつたが私は最早まる一年も帰らなかつた。恰度、一年前の今ごろ私はカバンを一つぶらさげて芝居見物に上京したまゝ――。
それ故、またカバンを一つぶらさげて戻つて来た私達の姿を見出したロータスといふ村の酒場の娘は、
「まあ、随分永い芝居見物でしたわね。」