牧野 信一

心象風景

一

槌で打たなければ、切り崩せない堅さの土塊であつた。――岡は、板の間に胡坐をして、傍らの椅子に正面を切つて腰を掛けてゐる私の姿を見あげながら、一握りの分量宛に土塊を砕きとつて水に浸し、適度に水分を含んだ塊を順次に取り出しては菓子つくりのやうにこねるのであつた。

岡の額には汗が滲んだ。彼の労働の状態を眺めてゐると、私も全身に熱を感じた。私達は朝の七時から仕事に着手して、午迄一言の言葉もとり交さなかつた。――極寒の日であつた。

岡が自分の手で建築した掘立小屋のアトリヱである。四囲の壁は、壁を塗るべき下拵へだけが出来てゐて、未だ壁は塗つてなかつたから、内に居て、外の風景が格子の間からキラキラと眼に映つた。碧い空が見えた。アトリヱの傍らの芝生には鶏や兎や山羊が遊んでゐた。窓では私達が捕獲した梟の籠が日を浴びてゐた。

青空文庫の作品カード