牧野 信一
素書
一
「マダムの御気嫌はどう? 今日は?」
山崎の顔を見るなり私は、部屋の入口に突立つたまゝ凝つと、訊ねた。――「君の顔色には何だか生気がない、病的といふほどのことではなしに……。眼つきが何となく悸々としてゐる、今日も!」
「さうだらう、俺は――」と山崎は、私がもつとさういふ風な彼に関する批評を続けるであらうことを、別段に何の不安を持つこともなく待ち構えるやうに、ぼんやりとして、
牧野 信一
一
「マダムの御気嫌はどう? 今日は?」
山崎の顔を見るなり私は、部屋の入口に突立つたまゝ凝つと、訊ねた。――「君の顔色には何だか生気がない、病的といふほどのことではなしに……。眼つきが何となく悸々としてゐる、今日も!」
「さうだらう、俺は――」と山崎は、私がもつとさういふ風な彼に関する批評を続けるであらうことを、別段に何の不安を持つこともなく待ち構えるやうに、ぼんやりとして、