牧野 信一
冬物語
一
その田舎の、K家といふ閑静な屋敷を訪れて、私は四五年振りでそこの古風な庭を眺めることを沁々と期待してゐたが、折悪しく激しい旋風がこゝを先途と吹きまくつて止め度もなく、遥かの野面から砲煙のやうに襲来する竜巻の津波で目もあけられぬ有様だつた。
「何もこの風は、けふに限つたことではありはしない。大体冬ぢうは吹き通す風さ。」
とK家の主の銑太郎は、風流さうな顔つきを曝して遥々とやつて来た私をわらつた。私も吾ながらの迂闊さを後悔したが、そんな激しい風が、何も事更でもないといふやうな土地の、身を切らるゝ寒さは想像にあまるものであつた。