牧野 信一

スプリングコート

一

丘を隔てた海の上から、汽船の笛が鳴り渡つて来た。もう間もなくお午だな――彼はさう思つただけで動かなかつた。いつもの通り彼は、まだこの上一時間か二時間はうと/\して過す筈だつた。日が射してまぶしいもので、頭からすつぽりとかひまきを被つたまゝ凝と小便を怺へてゐた。硝子戸も障子も惜し気なく明け放されて、蝉が盛んに鳴いてゐた。

「もう暫く眠つてやれ。」

彼は、たゞさう思つてゐた。

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