牧野 信一
父の百ヶ日前後
一
彼が、単独で清友亭を訪れたのはそれが始めてだつた。――五月の昼日仲だつた。
「先に断つておくがね、僕今日は用事で来たんぢやないよ。……芸者をよんで、そして僕を遊ばせて呉れ。」
彼は、玄関に突ツ立つて、仏頂面でそんな言訳をした。彼の姿を見ると、女将は眼を伏せて、黙つて頭をさげた。それで彼は、一寸胸が迫つたので、慌てゝそんな気分をごまかす為に、決して云ひたくはなかつたのだが、強ひて晴々と笑つて、
牧野 信一
一
彼が、単独で清友亭を訪れたのはそれが始めてだつた。――五月の昼日仲だつた。
「先に断つておくがね、僕今日は用事で来たんぢやないよ。……芸者をよんで、そして僕を遊ばせて呉れ。」
彼は、玄関に突ツ立つて、仏頂面でそんな言訳をした。彼の姿を見ると、女将は眼を伏せて、黙つて頭をさげた。それで彼は、一寸胸が迫つたので、慌てゝそんな気分をごまかす為に、決して云ひたくはなかつたのだが、強ひて晴々と笑つて、