牧野 信一
明るく・暗く
一
天井の隅に、小さい四角な陽がひとつ、炎ゆるやうにキラキラと光つてゐた。湯槽の上の明りとりから射し込んだ陽が、反対の壁にかゝつてゐる鏡に当つて、其処に反映してゐるのだつた。
純吉は、先程から湯槽に仰向けに浸つて、悠々と胸を拡く延しながら、ぼんやりとその小さな陽を眺めてゐた。――快い朝だ、と彼は沁々と思つた。……帰省して以来間もなく一ト月にもなつたが、その間、何といふ懶い日ばかりが続いたことだらう。
秘かに想ひを寄せてゐた照子は、勝ち誇つたやうに嫁いてしまつたし――加けに高を括つてゐた学校は落第してしまつたし、……。