岡本 綺堂
慈悲心鳥
一
人びとの話が代るがわるにここまで進んで来た時に、玄関の書生が「速達でございます。」といってかさ高の郵便を青蛙堂主人のところへ持って来た。主人はすぐに開封すると、それは罫紙に細かく書いた原稿ようのものに、短い手紙が添えてあるらしかった。主人はまずその手紙だけを読んでしまって、一座のわれわれの方へ再び向き直った。
「ちょっと皆さんに申上げたいことがございます。わたくしの友人のTという男――みなさんも御承知でございましょう、先度の怪談会のときに「木曽の旅人」の話をお聴きに入れた男です。――あの男が二、三日前に参りましたから、実は今夜の「探偵趣味の会」のことを洩らしますと、それは面白い、自分もぜひ出席するといって帰りました。それが今夜はまだ見えないので、どうしたのかと思っていますと、唯今この速達便をよこしまして、退引ならない用向きが起って、今夜は残念ながら出席することが出来ない。就いては、自分が今夜お話ししようと思っている事を原稿に書いて送るから、皆さんの前で読み上げてくれというのでございます。一体どんなことが書いてあるのか判りませんが、折角こうして送って来たのですから、その熱心に免じて、わたくしがこれから読み上げることに致します。御迷惑でも暫くお聴きください。」
一座のうちには拍手する者もあった。