下村 千秋
旱天実景
一
桑畑の中に、大きな葉をだらりと力なく垂れた桐の木に、油蝉がギリ/\啼きしきる午後、學校がへりの子供が、ほこりをけむりのやうに立てゝ來る――。
先に立つた子が、飛行機の烟幕だといひながら熱灰が積つたやうなほこりの中を、はだしの足で引つ掻きながら走る。ほこりは、子供のうしろに尾を引いてもん/\と黒くなるほど舞ひ上る。うしろの子供等は、敵機追撃だと叫びながら口でうなりを立てゝ、ほこりの中に走りこむ。幾つかの影が、一時まつたくほこりの中に消えて、やがて一つ一つ、兩手を掻き廻しながら、こちらへ拔け出して來る。それからみんなほこりで眞黒になつた口を開けて一せいに『ワーツ……』と譯もなく喚聲をあげる。その聲は、何の反響もなくほこりの中に吸ひこまれてしまふ。さうして子供とほこりの群は畑道から畑道へ移つて行く。
舞ひ上つたほこりは、赤黄ろく畑の上にひろがつて、しばらくは、ぢつと動かない。それがいつか桑の葉に、岡穗の葉に、玉蜀黍の葉に、その青さを消すほどに白く積つて、そこらが稍々透明になると、そこへメロメロと陽炎が立ち、白い道はまたヂリ/\と焦げはじめる。