田中 貢太郎
海坊主
これは小説家泉鏡花氏の話である。
房州の海岸に一人の壮い漁師が住んでいた。某日その漁師の女房が嬰児の守をしながら夕飯の準備をしていると、表へどこからともなく薄汚い坊主が来て、家の中をじろじろと覗き込んだ。女房はそれを見て、御飯でも貰いに来たのだろうと思って、早速握飯をこしらえて持って往って、
「これを」
と云って差しだしたが、坊主は横目でちらと見たばかりで手を出さなかった。女房はやさしかった。それではお銭がいるだろうと思って、今度は銭を持って出て、
田中 貢太郎
これは小説家泉鏡花氏の話である。
房州の海岸に一人の壮い漁師が住んでいた。某日その漁師の女房が嬰児の守をしながら夕飯の準備をしていると、表へどこからともなく薄汚い坊主が来て、家の中をじろじろと覗き込んだ。女房はそれを見て、御飯でも貰いに来たのだろうと思って、早速握飯をこしらえて持って往って、
「これを」
と云って差しだしたが、坊主は横目でちらと見たばかりで手を出さなかった。女房はやさしかった。それではお銭がいるだろうと思って、今度は銭を持って出て、