田中 貢太郎
空中に消えた兵曹
大正七八年比のことであった。横須賀航空隊のN大尉とS中尉は、それぞれ陸上偵察機を操縦してA飛行場に向けて長距離飛行を行い、目的地に到著して機翼をやすめるひまもなく、直ちに帰還の途についた。
両機は一千米の高度を保ちながら雁行していたが、箱根の上空にさしかかったところで、密雲のために視界を遮られたうえに、エアーポケットに入って機体が烈しい勢いで落下した。そして、二百米ばかりも落下して、やっと危険を脱したので、N大尉はやや安心して僚機の方を見たが、僚機の姿は見えなかった。
N大尉は己でも危険に遭遇しているので、もしや彼の時にどうかしたのではないかと思ってS中尉の身の上を心配しいしい帰って来た。それで著陸するなり、機体の手入れも忘れて西の方ばかり見ていた。と、二十分ばかりして僚機の姿が夕暮の空に見えて来た。N大尉はほっとして僚機の著陸するやいなや駈けて往って、S大尉[#「S大尉」はママ]の手を執った。
「おめでとう、やられたろう」