山下 利三郎

流転

「蕗子が殺されたのは、その晩の僅かな時間のあいだでした……。

私が訣別の詞を書いた手紙をもって戸外へ出ると、そこは彼女の家の裏まで田圃つづきです。彼女の居間に灯のついていることが、幾度か窓の下へ近よってゆくことを逡巡させましたが、ようやく思切って忍足に障子の際までゆくと、幸いその破れから内部を覗くことができました。

母に死別れて間のない、傷みやすい蕗子の心を波立たせたくない。能ることなら何も知らせずに、このまま土地を離れてしまいたい。この手紙だって、自分が旅立ってしまうまでは、見てくれない方が好いのだと思っていたのですが、都合の好いことには蕗子は他の部屋にでも行っていたのか、その部屋は空っぽだったのです。

分厚い手紙が、指先を放れて、窓障子の間からぱさりと音をたてて落ちました。

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