田中 貢太郎

室の中を歩く石

大阪市住吉区阿倍野筋一丁目に、山本照美と云う素封家の未亡人が住んでいた。其家には三人の子供があって、長女を政子、長男を政重、次男を政隆と云っていた。

その夏照美さんは、子供たちのために、庭へ小さな池を掘って数多金魚を入れたが、池の周囲が淋しいので、石を拾って来てその中へ置いた。それは鶏卵大の石で、数は十六個あったが、そのうち一個だけが赤みがかった石で、他は皆白い石であった。

子供たちは朝夕に庭へ出て金魚を見て楽しんでいたが、石を入れてから二日目の朝になって、金魚は皆死んで浮きあがっていた。

照美さんは気もちがわるいので、早速金魚を棄てて池の水を乾してしまった。それは九月二十六日であったが、その夕方の七時頃、夕飯を終った照美さんが、奥の六畳へ往ったところ、池の中へ入れてあった彼の十六の石が、室の中に円く並んでいた。次男の政隆でも悪戯に持って来たものだろうと思って、見るともなしに見ていると、それがすこしずつ動いているようであるから驚いた。

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