竹久 夢二
都の眼
留吉は稲田の畦に腰かけて遠い山を見ていました。いつも留吉の考えることでありましたが、あの山の向うに、留吉が長いこと行って見たいと思っている都があるのでした。
そこには天子様のお城があって、町はいつもお祭りのように賑かで、町の人達は綺麗な服をきたり、うまいものを食べて、みんな結構な暮をしているのだ。欲しいものは何でも得られるし、見たいものはどんな面白いものでも、いつでも見ることが出来るし、どこへゆくにも電車や自動車があって、ちょっと手を挙げると思うところへゆけるのだ。
おなじ人間に生れながら、こんな田舎で、朝から晩まで山ばかり見て暮すのはつまらない。いくら働いても働いても、親の代から子の代まで、いやおそらくいつまでたっても、もっと生活がよくなることはないだろう。牛や馬の生活と異ったことはない。たとえ馬であっても都で暮して見たいものだ。広い都のことだから、馬よりはすこしはましな生活が出来るだろう。留吉はそう考えると、もうじっとしていられないような気がするのでした。
それから三日目の朝、留吉は都の停車場へ降りていました。絵葉書や雑誌の写真で見て想像はしていたが、さて、ほんとうに都へ来てみると、どうしてこんなに沢山な人間が、集っているのだろう、そしてなんのためにこの大勢の人間は忙しそうにあっちこっちと歩いているのだろう。ちょっと立っている間にさえ、自動車が二十台も留吉の前を走って行きました。