泉 鏡花

露肆

一

寒くなると、山の手大通りの露店に古着屋の数が殖える。半纏、股引、腹掛、溝から引揚げたようなのを、ぐにゃぐにゃと捩ッつ、巻いつ、洋燈もやっと三分心が黒燻りの影に、よぼよぼした媼さんが、頭からやがて膝の上まで、荒布とも見える襤褸頭巾に包まって、死んだとも言わず、生きたとも言わず、黙って溝のふちに凍り着く見窄らしげな可哀なのもあれば、常店らしく張出した三方へ、絹二子の赤大名、鼠の子持縞という男物の袷羽織。ここらは甲斐絹裏を正札附、ずらりと並べて、正面左右の棚には袖裏の細り赤く見えるのから、浅葱の附紐の着いたのまで、ぎっしりと積上げて、小さな円髷に結った、顔の四角な、肩の肥った、きかぬ気らしい上さんの、黒天鵝絨の襟巻したのが、同じ色の腕までの手袋を嵌めた手に、細い銀煙管を持ちながら、店が違いやす、と澄まして講談本を、ト円心に翳していて、行交う人の風采を、時々、水牛縁の眼鏡の上からじろりと視めるのが、意味ありそうで、この連中には小母御に見えて――

湯帰りに蕎麦で極めたが、この節当もなし、と自分の身体を突掛けものにして、そそって通る、横町の酒屋の御用聞らしいのなぞは、相撲の取的が仕切ったという逃尻の、及腰で、件の赤大名の襟を恐る恐る引張りながら、

「阿母。」

青空文庫の作品カード