宮沢 賢治
泉ある家
これが今日のおしまいだろう、と云いながら斉田は青じろい薄明の流れはじめた県道に立って崖に露出した石英斑岩から一かけの標本をとって新聞紙に包んだ。
富沢は地図のその点に橙を塗って番号を書きながら読んだ。斉田はそれを包みの上に書きつけて背嚢に入れた。
二人は早く重い岩石の袋をおろしたさにあとはだまって県道を北へ下った。
道の左には地図にある通りの細い沖積地が青金の鉱山を通って来る川に沿って青くけむった稲を載せて北へ続いていた。山の上では薄明穹の頂が水色に光った。俄かに斉田が立ちどまった。道の左側が細い谷になっていてその下で誰かが屈んで何かしていた。見るとそこはきれいな泉になっていて粘板岩の裂け目から水があくまで溢れていた。