坂口 安吾
親が捨てられる世相
戦争中はほかに楽しみもなかったので、私はよく碁会所のお世話になった。
若い人は戦争に行ってるから、常連の多くは年配の人であったが、後日に至って「すてられる親たち」の様相はそのころから私の目につくようになった。彼らの多くは、かなり教養の高い人でも、概ねステバチになっていた。働かざるもの食うべからず、ゴクツブシ、というような思想が――思想よりも強力な制度が、たとえば配給量という当時の最も切実なものの上で「お前はゴクツブシ」だという無言の審判を押しつけてくる。
あのころは、まるでもう配給量が人間の値打を規定していたようなものだ。老人が孫の特配を盗んで野良猫のような罵倒をうける例は近隣でしばしば見かける風景であった。
碁会所の常連に一人の老人があった。半生外地で会社勤めをして、老後を東京で暮す計画をたてて、そしてそれを設計通りに実行した人である。