泉 鏡花・泉 鏡太郎
印度更紗
一
「鸚鵡さん、しばらくね……」
と眞紅へ、ほんのりと霞をかけて、新しい火の※[#「火+發」、U+243CB、624-3]と移る、棟瓦が夕舂日を噛んだ状なる瓦斯暖爐の前へ、長椅子を斜に、ト裳を床。上草履の爪前細く※娜[#「女+島」の「山」に代えて「衣」、U+5B1D、624-4]に腰を掛けた、年若き夫人が、博多の伊達卷した平常着に、お召の紺の雨絣の羽織ばかり、繕はず、等閑に引被けた、其の姿は、敷詰めた絨氈の浮出でた綾もなく、袖を投げた椅子の手の、緑の深さにも押沈められて、消えもやせむと淡かつた。けれども、美しさは、夜の雲に暗く梢を蔽はれながら、もみぢの枝の裏透くばかり、友染の紅ちら/\と、櫛卷の黒髮の濡色の露も滴る、天井高き山の端に、電燈の影白うして、搖めく如き暖爐の焔は、世に隱れたる山姫の錦を照らす松明かと冴ゆ。
博士が旅行をした後に、交際ぎらひで、籠勝ちな、此の夫人が留守した家は、まだ宵の間も、實際蔦の中に所在の知るゝ山家の如き、窓明。