泉 鏡花・泉 鏡太郎
艶書
一
「あゝもし、一寸。」
「は、私……でございますか。」
電車を赤十字病院下で下りて、向うへ大溝について、岬なりに路を畝つて、あれから病院へ行くのに坂がある。あの坂の上り口の所で、上から來た男が、上つて行く中年増の媚かしいのと行違つて、上と下へ五六歩離れた所で、男が聲を掛けると、其の媚かしいのは直ぐに聞取つて、嬌娜に振返つた。
泉 鏡花・泉 鏡太郎
一
「あゝもし、一寸。」
「は、私……でございますか。」
電車を赤十字病院下で下りて、向うへ大溝について、岬なりに路を畝つて、あれから病院へ行くのに坂がある。あの坂の上り口の所で、上から來た男が、上つて行く中年増の媚かしいのと行違つて、上と下へ五六歩離れた所で、男が聲を掛けると、其の媚かしいのは直ぐに聞取つて、嬌娜に振返つた。