坂口 安吾
市井閑談
(一) やまさん
昔銀座裏に「千代梅」といふおでん屋があつたころ、あそこは奇妙な人物が出入して不思議なところであつたが、桃中軒雲右衛門の妻君といふ婆さんなどと一緒に「やまさん」といふ二十二三の優男が居候してゐた。
「やまさん」は左団次の弟子で女形だつたさうだ。それであそこへ出入する芸者達がおやまの「やまさん」で、さう称んでゐたのである。時々「たいこもち」に出掛けたりした。
「やまさん」は変態であつた。僕はさういふことを知らないので、この店へくると「やまさん」を相手に酒をのむ。そのうち「やまさん」の挙動が妙なのでやうやく変態といふことが分り、それ以来いくぶん敬遠するやうになつた。